大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)1856号 判決

被告人 神沢敏夫

〔抄 録〕

原判決が、その挙示引用する各証拠により原判示事実、特に、所論指摘の被告人が、春野冬子(仮名)(当時四三年)において心神喪失の状態にあることを認識して、右心神喪失の状態に乗じて同女を強姦した事実を認定した措置は、優に肯認することができる。すなわち、右各証拠、特に、高瀬七郎の検察官に対する供述調書の供述記載によれば、同女は、当時四三歳で、成人の重度精神薄弱者収容施設である原判示のつつじケ丘光の園に収容され、知能指数二一の重度の白痴で、四、五歳の知能程度しかなく、善悪の判断ができないものであったこと、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書の供述記載によれば、被告人は、同女に対し「やらせるかい」と言って、右手で親指を人示指と中指の間にいれて(いわゆる女陰の形を示しやらせろという意思表示)握って見せると、同女がにやにやして「うん」と言ってうなづき、意外な返事をしたことなどの同女の言動を見て、同女を頭の弱いばかな人だと思っていたと述べているばかりでなく、被告人と冬子とは初対面の間柄であり、被告人が同女の手にしていたビニール袋入りのヨモギ草を見て、何処で採ってきたのかとたずねたのに対し、同女は「あっち、たくさんある」等と幼稚な応答をしており、同女が人なつこい態度をしているのを認め(原判決引用の証拠によれば、実は、この人なつこい態度を示すことが重度精神薄弱者の特徴でもある)、被告人はこの女はやらせると思い、愛情の表現等を一言も口にすることなく、直ちに前記の如く右手で女陰の形を作り「やらせるか」と同女に申し向けているのであって、被告人が原審並びに当公判廷で弁解しているように、いかに同女が男をほしがっていると思ったにせよ、女性に対し性的交渉を求める男の態度としては極めて異常であり、しかも、被告人のこのような仕ぐさに対して、被告人が述べているように同女がなんらのためらいもなく応諾したということも、通常の成人婦女の態度としては怪んでしかるべきことであり、姦淫に際しても、同女は被告人のいうがまま何のためらいもなくその着用していたズボンを足許まで脱いでいるのであり、その間同女の側から性的交渉を求めるについて積極的姿勢を示した事実も認められないのであるから、同女が当時正常な判断能力を有せず、精神薄弱(重度の白痴)の状態にあり、同女が本件姦淫について承諾能力を欠いていたことはもとよりとして、被告人に対し通常成人の婦女が示す姦淫についての同意の意思を示していたものとは到底容認し難く、被告人としても、前記捜査官に対し語っているように同女が頭の弱いばかな人だとの認識、すなわち、刑法一七八条の罪の成立に必要な故意を有していたものと認定するに毫も支障はない。右認定に反する被告人の原審及び当公判廷の供述は到底これを措信することができないし、他に右認定を動かすにたりる証拠はない。してみると、被告人が右認定のような精神状態にある春野冬子を姦淫した本件所為は、まさに刑法一七八条にいう人の心神喪失に乗じて姦淫したものと解するのが相当であるから、原判決には所論のような事実誤認の違法は存しない。

(谷口 金子 小林)

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